2011年6月2日 作成

平成23年第2回吉田町議会定例会(平成23年6月2日開会)所信表明

 平成23年第2回吉田町議会定例会は、平成23年4月24日執行の統一地方選挙後初となる議会定例会でございますので、今定例会におきまして、今後の町政運営についての所信を述べさせていただきます。
 突如我が国を襲った3月11日の東日本大震災は、国民のみならず、世界中の人々に津波災害と放射能拡散の脅威を強烈に印象付け、その爪痕の惨状に今なお震撼させられております。今回の統一地方選挙は、そうした非常事態の中で執行されましたが、最近行った政治活動や選挙活動では、特に、町民の皆さまへの安全安心の提供という行政の役割の重大さについて、強く、深く、そして真剣に向き合わせられました。これは、議員の皆さまも同様ではないかと思います。
 私は、行政経営というものは、そこに住み、活動する住民や企業などが持つことができる安心感の度合いによって、その質が決定付けられるものと考えております。東日本大震災は、正に、この行政経営の質を決定付ける安心感の部分を大きく揺さ振り、これまで営々と培ってきた様々な防備に疑いを抱かざるを得ない状況を生み出しました。当町の海岸線には、長い年月を費やして、防潮堤と津波堤と水門を設置し、少なくとも、只今静岡県が公表している第3次被害想定までの津波や高潮はブロックできるようになっております。また、陸閘や水門は、地震発生時に自動閉鎖するように整備するとともに、庁舎6階に津波防災ステーションを設置して制御できるようにいたしましたので、津波や高潮に対する防衛力は堅固であり、東海地震など近い場所で地震が発生しない限り、少なくとも最大波4メートル程度までの津波はブロックできる備えを築いてまいりました。
 しかし、東日本大震災を目の当たりにし、当町の防災機能を再点検いたしましたところ、津波被害からの防御の要ともいえる防潮堤や津波堤の波力や地震動に対する耐久力について確信を持てるデータがなく、防潮堤や津波堤が決壊した場合における被害想定や想定以上の高さの津波が襲来したときの被害のシミュレーションもありませんでした。さらには、東海地震単独発生を前提とした静岡県の第3次被害想定そのものの危うさにも気付かされました。結局のところ、当町の防災力について、皆さまに客観的資料をもってご説明できるものがほとんどない状況であることを痛感いたしました。
 東日本大震災においては、「想定外」という言葉が至る所で使われましたが、想定がない中で有効な対策を講じることは極めて難しいことであることは言うまでもありません。町民の皆さまの安全を第一に考えなければならない立場にある者としては、いつまでも「想定外」のまま放置しておくことはできませんので、切迫感を持ちつつ、早急に、自らの実情を客観的かつ正確に把握し、より確実性の高い想定に基づく備えができるよう事態を進展させなければならないとの考えに至った次第であります。
 津波被害から逃れるためには、全ての津波を海岸線でブロックすることですが、自然を相手にそれを行うことは至難の業であると考えなければなりません。それができないとすると、次は、全ての町民の皆さまの生命と財産を保全できる備えの程度、また、財産の保全は無理でも、生命を守れる備えの程度を想定して、着実な対策を施さなければなりません。そして、その備えの程度を公表することによって、全ての町民の皆さまが、どの程度の地震動や津波に対して自己防衛を図らなければならないかということを承知していただくことで、当町に対する安心感が高まるのではないかと考えております。
 私は、町民の皆さまが安心して日々の生活を営むことができる町を築けなければ、未来永劫活力ある町であり続けることはできないと常々考えております。これまで、町民の皆さまに信頼される行財政運営の確立に取り組むとともに、産みやすく育てやすい環境の充実、健康を維持しやすく社会に参加しやすい環境の充実、打ち明けやすく周囲が手を差し伸べやすい環境の充実を図ることによる福祉社会の建設、教育環境の充実、そして都市防災基盤の充実などに取り組み、町民の皆さまの安心感をある程度高揚させることができたと自負しておりますが、本年3月11日を境に、地震動と津波災害に対する安心感については、早急に特化して取り組まなければならないとの意を強くいたしました。そして、東海地震が襲来するまでの間に、あらゆる手段を講じて可能な限りの備えを施さなければならないとの使命感に駆られております。
 先般、こうした強い思いを抱いて、対処方針を探るべく、東京大学地震研究所に相談に出向きましたところ、津波の研究では夙に名を馳せておられます都司喜宣理学博士が相談に応じてくださり、当町の防災対策に関する支援についてご快諾いただきました。その瞬間、一筋の光明を見出した思いでございました。
先ずは、東京大学地震研究所の都司博士の技術指導のもとで、最近の最も有力な学説に基づく東海地震に関連する地震と津波のシミュレーションを行った上で、想定される地震が発生した場合に、当町にどの程度の地震動や津波が襲来するのか、その際の当町の既存の防御機能の効果はどうなのか、防御できないとしたならどの程度の津波被害が発生するのか、地震動の詳細なシミュレーションはどうなるのか等々の調査を実施し、町民の皆さまにご説明できるようにするとともに、将来に残すべき防御の程度を決定するための資料の作成に着手することといたしました。地震と津波への対策は、時間をロスしている余裕はなく、今後様々な形でもたらされるであろう一瞬のチャンスを捉えながら、効率的に、そして着実に進めなければなりません。
 今定例会に上程いたしました平成23年度吉田町一般会計補正予算第1号には、その第1歩となる町独自の津波ハザードマップ作成及び津波避難計画策定のための委託経費を計上させていただきました。当町の防災対策は、この成果を踏まえて可能な限り加速して先に進めてまいりますが、今回の補正予算には、現状で出来る具体的な防災対策として、住吉小学校屋上への避難を可能にするための階段及びフェンスの設置費と同報無線の戸別受信機となる防災行政ラジオの全世帯無償配布費用も計上させていただいております。
 長い海岸線を有する当町としては、津波に対する防備の見直しは喫緊の課題であり、安全安心なまちを築いてこそ、豊かなまちとして今後とも伸び行くことができるものと考えますので、当面は、安全安心なまちづくりを最優先に据え、国や県のみならず、研究機関や有益な民間のノウハウなども活用しながら、鋭意努力してまいる所存でございます。議員各位におかれましても、安全安心なまちづくりのためにご協力賜りますようお願い申し上げます。
 他方、新たな津波ハザードマップに基づいて取り組む防災対策以外の施策展開でございますが、昨年度、平成23年度から平成27年度までを計画年次とする第4次吉田町総合計画後期基本計画を策定しておりますので、基本的には、この計画に基づいて行財政運営を進めてまいる所存でございます。しかしながら、この計画には、東日本大震災の教訓は反映されておりませんので、優先的に取り組む防災対策と重点化項目との優先順位を吟味しながら、福祉社会の建設、教育環境の整備、都市防災基盤の整備をさらに進めるとともに、町の骨格を成す幹線道路の整備も急いでまいりたいと存じます。
 また、諸施策を具体化するに当たりましては、まちづくり機構のようなシステムを構築することができるように、住民の参画意識の醸成に努めながら、町民参画型の事業展開を行ってまいりたいと考えております。そして、首長の恣意的な行政運営に歯止めをかけることを目的とする実効性のある自治基本条例の制定も目指してまいりたいと考えており、とりわけ、自治基本条例の制定と安全安心なまちづくりの推進につきましては、住民参画の手法を取り入れて、地域と行政が一体となった取り組みを展開してまいりたいと存じます。
 これからの四年間は、政治、経済、環境などあらゆる分野において私たちがこれまで経験したことがないような事態に直面することが多々発生するのではないかと感じております。行政は、それらの事態に対し、臨機応変に対応でき得る能力を培わなければならず、絶えず進化し続けることができるよう柔軟な思考をもって取り組んでまいります。また、町土と町民の皆さまの生命や財産を地震・津波被害から保全することは国や県の支援なしでは達成することは至難のことでありますので、既に開始している国等への働きかけを今後ますます強めてまいらなければならないと考えております。
 議員各位におかれましても、今後、刻々と変わる事態に即応しようとする行政の取組を高邁な見地からご支援賜りますよう切にお願い申し上げまして所信表明といたします。